「遅くなって、ごめんな。
あの朝から出張だって言いそびれた。
気分は?」
綺樹は食い入るように涼を見つめ、目を見開いたまま体を起こそうとした。
「やめとけ」
涼が押しとどめると、綺樹は両腕を伸ばした。
子供が親に抱っこをせがむのと同じ仕草だった。
涼は身を屈めると、抱きしめて背中をあやすように叩いた。
「悪かった、悪かった」
涼の首筋に綺樹が顔を埋めるのを、さやかは何も言わずに見ていた。
再び引き戸が開く。
入ってきたのは医者と警察だった。
「さやか?」
綺樹は警察を見ながら聞いた。
「医者が暴行の跡を見たら、警察に連絡しなくてはいけないのを知っているでしょ?」
さやかは冷静に答えた。
綺樹はさやかへ振り返った。
「涼じゃない」
「でも今、同居しているのは涼でしょう?」
真実を知っているはずなのに、その発言に綺樹は唾を飲んだ。

