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湿気の含んだ生ぬるい風が吹き荒れていた。
フェリックスは夜の闇の中、バルコニーにいた。
樹の枝がもがき苦しむ腕のような動きを見せる。
素肌にまとった黒いローブの裾が、たびたび翼のように舞い上がった。
漆黒の翼。
このまま自由になり、飛びたてられれば、どんなに楽か。
だが所詮、行き先は知れている。
薄く笑った。
背後のベッドの上で、綺樹はこん睡状態だった。
半分とはいえ、綺樹の骨格は華奢な東洋人だ。
自分の手荒さに、壊れそうになる。
そして壊れてしまえと思う。
そう。
壊してしまえばいい。
去れないように。
行き先が、そして帰り着く所がわからなくなるように。
ベッドに近づき、見下ろす。
切れたらしく、綺樹の太腿からシーツが赤く染まっていた。
フェリックスは手を伸ばし、指を頬から髪に滑らせた。
綺樹。
その方がおまえは幸せになれるかもしれない・・。

