綺樹は意味がわかると、目をむいてさやかをみつめた。
さやかは静かに見返した。
「なんだって?」
さやかが微笑する。
「本当に、なんだって、よね」
綺樹は口を開いて閉じた。
「行ってくる」
「水曜日は会議よ」
綺樹はちらりと視線を投げて部屋を出た。
なんだって、なんだって。
早足で廊下を駆け抜ける。
なんで。
綺樹はエレベーターのボタンを拳で叩いた。
やめてくれ。
額をドアにつける。
フェリックスには。
あの誇り高い男には、そういうことをして欲しくない。
あの男にはなんだって、こう涙が出そうな目に何度も遭わせられるのか。

