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涼が食事を作って待っているものだから、そう遅くまで仕事が出来なくなった。
グレースにノートPCを用意してもらい、早めに家に帰ると夕食の後に仕事をするしかなかった。
今夜も綺樹はダイニングテーブルで仕事をしていた。
椅子に胡坐をかいて座り、パソコンと書類を睨んでいる。
バスルームから戻ってきた涼は、ドアのところからその姿をしばらく見つめていた。
学生が論文を書いているような様子なのに、実際は億の金の話だ。
「綺樹」
パソコンから目が離れない。
「綺樹」
もう一度強く呼ぶと、やっと気が付いたようだった。
まだ頭は仕事のほうに残っているらしく、ぼんやりとした顔だった。
「ああ」
何やら呟くと書類に視線が戻って、走り書きをした。
今は駄目そうだ。

