「私」


その声にチェーンをしているのも忘れ、思い切りドアを開けてしまい、反動で手
がしびれる。

ドアの起こした風の勢いでまぶたが閉じられ、ゆっくりと上がった。

淡い茶色の瞳。

それを茫然と見つめた。


「よお」

「ああ」


間抜けな返答をして我に返り、一旦ドアを閉めてチェーンを外し、再び開く。

綺樹が幻で無く立っていた。


「どうして?」

「ん?」


まだ呆けたように聞くと、どこか罰の悪そうな様子を見せた。

居心地悪そうに身動きする。

踵を返して、去りそうな雰囲気だった。


「とにかく、入れよ」

「うん」


涼はストーブの近くに椅子を引き寄せてやった。


「ありがとう」


綺樹が座るとふわりとあの香りが漂う。

思わず背中がぞくりとしたが、涼はベッドに腰を下ろすと、綺樹の姿を眺めた。

どこかのパーティーの帰りらしかった。

淡いブルーにグレーを混ぜた光沢のある生地のドレス。

その上に透き通るシフォンが重ねられている。

むき出しの肩にはシルバーグレーのファーをかけていた。