綺樹はああいう世界を生きるしかないし、自分はこういう世界で生きることを選んだのだ。

バケツの水をあけて、新しい水を汲む。

あの世界は自分にはむかない。

仕事だけならともかく、その他のストレスが強すぎる。

綺樹もそうだ。

だから自分の助けを必要としていたところもある。

だけどその他のストレスにもまして、あいつは仕事が出来るし、とても好んでいる。

自分はそこまで仕事が好きではなかった。

水が溢れているのに気が付いて蛇口を止める。

じゃあ、綺樹をあきらめられるのか。

思わず、光を乱射するバケツの水面を凝視してしまう。

指輪を捨てられるか。

乱暴にバケツを持ち上げたため、水がこぼれて乾いた土に吸い込まれていく。

できない。

諦められない。

だったら自分のプライドを曲げて、ヒモとして見られる生活を受入れるしかない。

綺樹の足元にすがりつきに行くしかない。

どうやって行く?