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夕食が終わると綺樹は自室のソファーに寝転がった。
ギブスで固定された手を上手い具合に使って、ワイングラスを片手に書類を見ていた。
なんだか昨夜はフェリックスの深淵をのぞいた気がした。
なにを彼は無理矢理に押さえつけているのだろう。
自制に次ぐ自制のシールドをいくつも張っている。
そのために本人でも気づかない位に肥大化しているような気がした。
ため息をついてグラスと書類をテーブルへ置くと、眼を閉じる。
うつらうつらとしてきた。
どの位経ったのか、窓の外で自動車が止まる音がした。
人の話し声のようなのが聞こえ、正面の重いドアが閉まる音がする。
夢と現実の間を行き来しながら聞いていた。
フェリックスが持ち株会社の会議から帰ってきたのだろう。
実家に寄るといっていたのに、泊まらなかったのか。
着替えて一息ついたら、こちらに来るだろうか。
それとも今夜は来ないか。

