「ああ。
うん。
だから、おまえも気にせずに、私を思う存分利用するといいんだ」
綺樹は出て行った。
フェリックスはくちびるを結ぶ。
最後は言わせた台詞だ。
こんな事で綺樹は涼を思い切れなどしない。
こちらを救いたいという気持ちが本心なのだろう。
今までの恩返し。
“恩返し”
そんなことを望んでなんかいない。
望んでいるのは。
フェリックスは強制的に思考を打ち切った。
だが、とにかく女を抱いてこんな後腐れの悪いのは初めてだ。
かなりの失態だ。
自分の間違いをなんとか取り繕うとするために、抱いた女の間違いにした。
フェリックスが自分の書斎に入ると、隣の綺樹の書斎へのドアはいつもどおり開いたままだった。
紙のこすれる音やキーボードの叩く音が聞こえているので、すでに仕事をしているらしい。
開いたままのドアをノックしてよりかかった。

