「フェリックス」
唐突に腕を掴まれ呼ばれた声に、まぶたを無理矢理あげる。
綺樹だ。
上体を起こし、こちらを向いていた。
腕時計を見ると、まだ着いてから1時間ぐらいだ。
「どうした?」
言ってから聞こえないのを思い出した。
まだ寝ぼけているらしい。
ただ綺樹は掴んでいた腕の振動でわかったらしい。
綺樹は体の力を抜いた。
「ごめん。
起こすつもりではなかったんだ。
なんだか本当におまえなのかわからなくなったものだから」
前髪をかきあげてやった。
綺樹は姿勢を正面に戻すと、ちょっとためらった。
「わかっているんだな。
私が夢を見るって。
だから今日もわざわざ戻って来てくれたんだろ」
ふうっと息を吐いた。
「本当に困っちゃうよな」
自分で言って苦笑している。

