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誰か入ってきた。
かすかな空気の動きを皮膚で感じて、顔を動かした。
空気にエゴイストの香りが混ざった。
フェリックスだ。
頬に指先を感じたと思ったら、くちびるが合わさった。
綺樹はちょっとくちびるを動かして返事の代わりをした。
変わったなと思った。
前はこんなに優しく、相手を思いやるようなキスをする奴ではなかった。
挑戦するように、引きずり込んで服従させるような感じだった。
あの時。
涼に捨てられて、空っぽだった時。
涼は。
あの夜、何しに現れたのだろう。
二人とも、雇用関係が終わった時、完全な終わり、とわかっていたはず。
互いの住む世界が違いすぎて、偶然に偶然が重ならない限り。
超越した存在による、見えざる手が動かない限り、会う事は無いはずなのに。
フェリックスはその様子を見つめていた。

