Storm -ただ "あなた" のもとへ-


   *

誰か入ってきた。

かすかな空気の動きを皮膚で感じて、顔を動かした。

空気にエゴイストの香りが混ざった。

フェリックスだ。

頬に指先を感じたと思ったら、くちびるが合わさった。

綺樹はちょっとくちびるを動かして返事の代わりをした。

変わったなと思った。

前はこんなに優しく、相手を思いやるようなキスをする奴ではなかった。

挑戦するように、引きずり込んで服従させるような感じだった。

あの時。

涼に捨てられて、空っぽだった時。

涼は。

あの夜、何しに現れたのだろう。

二人とも、雇用関係が終わった時、完全な終わり、とわかっていたはず。

互いの住む世界が違いすぎて、偶然に偶然が重ならない限り。

超越した存在による、見えざる手が動かない限り、会う事は無いはずなのに。

フェリックスはその様子を見つめていた。