智房がいつきのリビングを訪ねると、いつきはいつもどおり物静かにお茶をすすめた。

「お疲れさまでした。
お呼び立てしたのは、まひるが君の心配をしているからです。

それと・・・君は何かドス黒い何かを隠していますね。
おそらくそれが魔力が上がらない原因になっていると思われる。」


「あ・・・・・。」


智房は静かにお茶を飲みほしてから、苦笑いした。

「なるほどね・・・俺と同い年でまひるの世話をやいてしまう人物は似てしまうのかもしれない。

じつはね、俺にも若い頃・・・妻がいたんです。」


「亡くなってしまったんですね。会社がらみででしたか・・・。」


「もう調査済みですか・・・さすがですね。

大学の後輩だったんですけどね、彼女が卒業してから結婚しました。

けれど、現在の会社の社長で従兄に寝取られてしまいまして。

それでもね、俺は彼女が従兄と幸せにやってくれればいいかとわりきろうとしたんです。
でも・・・従兄はその頃、仕事で大きなミスをして会社を危機に陥れてしまい、親ともめて・・・彼女に暴力をふるったんです。

そして彼女は・・・俺にありがとう、ごめんね。だけ電話で伝えてきて。」


「まひるにはその話はするつもりですか?」


「するつもりはありません。まひるに出会うまでは結婚話になるような付き合いなどしないつもりでいました。

でも・・・なんか放っておけないやら楽しいやらで。
どうしても俺の過去を知りたいという話になったら話すつもりでいたんですけど、俺にとってはとっくに終わったことですし、彼女には接点がないんで。」


「でも、君は引きずっているんですよね。
まひるのこの先の運命の話を聞かなければ、ここまできてテストなんて受けるつもりはなかったのでは?」


「まぁ、もとの大きさにもどれば彼女次第ってとこありました。
俺からは結婚をきりだすのはできなかったかもしれないです。」


「君は私を自分と似ているといいましたね。
私の話もご存じなんですよね。

そして、君も私とほぼ同じ道を歩もうとしている。
だからというわけじゃありませんが、少しおまじないをしてあげます。」


「おまじない?はぁ・・・」


「このビジョンわかりますかね。」


いつきは智房の手の甲に指でまるくなぞってそういった。

すると智房の妻の死ぬ前の様子が頭の中に映像として流れてきた。

「う、うそだろ・・・。そっか・・・。」


「それが真実です。君の意識と当時の時空魔法の記録から引っ張り出しました。
君は戸籍上結婚してはいない。
ずっと奥さんに騙され続けていたんです。

それを彼女は最後に悔いていた。
君と最初に出会っていたかったと・・・ね。」



「寝取られたわけじゃなかったんだ。最初からあいつと・・・。
俺は利用されただけだったんですね。」


「すみません、つらい思い出を掘り起こしてしまいました。

許してください。これも妹のため・・・そして君のためでもあるかと、勝手な判断をしました。」


「いや、ありがとう。
やっぱり、あんたはすごいよ。

俺もいつき様ほどはできないかもしれないけど、手厚く見守っていく仕事ができるかな。」


「慣れれば大丈夫。
君の方が私よりずっと適任かもしれません。

私はいつ時空のゆがみに飲みこまれてしまうかと怯えてしまいます。」


「なるほどね・・・じゃ、いつき様もドレスなんとかのパーティーへ行って楽しみましょう。」


「あ・・・私は任務が・・・その・・・。」


「招待状がきていないとは言わせませんよ。
あんたほどの人が欠席となると王室の皆さんはご立腹になるんじゃないですか。」


「ま、まぁ。気がのりませんがね。
先ほどの話のナミリハ様が参加されるなら出席するのもいいですね。

魔力テスト・・・たぶん合格できるはずです。
勉強をそのまますすめていってください。」


「はい。」