残業をまひるに命じた上司の名は樋川智房33才。

高身長、高学歴でニューヨークの営業所から購買課へやってきたという変わった移動をしてきた独身男だった。

噂では社長の香西駿介の従弟と言われているが妾腹の血筋だの、父親が自殺したのだのとも言われ、まわりからは一目おかれた存在である。



「ふむ・・・残業してからは作業は遅めながら、ちゃんと計算はあっているじゃないか。
こんな感じで昼間にやってくれると助かるんだがな。

ほれ、缶コーヒー・・・俺のおごりだ。お疲れさん。」



「あ、ありがとうございます。
自分でもなぜ、明るいときに実力が出ないのかわからないんです。

たまに妙な感覚に襲われちゃって・・・。」



「妙な感覚?体の調子でも悪いのか?」


「そうじゃないんですけど・・・うっすらと声が聞こえたり、光がさしたりして。」



「おい、それって精神病の類なんじゃないのか?
俺のせいでうつを発症したとか言うなよ。」



「いえ、課長のせいではないと思うんです。
今だって、怖いとか思うよりいい人だと思ってますし。

あ、コーヒーいただきますね。」



(あれ・・・なんか目がぼやける・・・。音が聞こえない。
課長が何か言ってるみたいなんだけど・・・なんだろう。

何が起こってるの? だめだ・・・動けない、聞こえない、どこかに引き込まれそうな・・・ううっ気分が悪いよ。

どうなっちゃうの私。)



まひるの目に強い光がとびこんだかと思うと、今度は謎の声が聞こえてきた。


「あなたは冒険者のサポート役に選ばれました。
これから冒険者を助け、世界を正しき道へ導く手伝いをしてください。

そして、あなたの身に何か起こってもくじけたり、あきらめたりすることなく、しっかりとした信念をもって冒険を終わらせたとき、あなたにはお礼としてバラ色の未来を授けることをお約束いたします。

冒険者ともども力をあわせてがんばってください。」



(だ、誰なの?ねぇ・・・誰!!!
冒険って何のこと?
ちょっと、ちゃんと答えてよ。説明してよ!ねぇ・・・)



そして、まひるが目をあけると机の上に顔を頬をついた状態だった。

仕事や勉強をしていてつい居眠りをすればそんなことはよくある状況ではあったが、次の瞬間まひるは目の前の信じられないことに声をあげた。


「う、ウソっ!!!か、課長・・・課長なんですよね。
どうしてそんな格好してるんですか?

いえ、どうしてそんなにちっちゃくなってしまったの?」



「う、うう・・・いてて。あっ茗花・・・おまえさぁ・・・って。
えっ!?

俺どうして裸なんだ?それに・・・あれ?ここはなんだ?

おわっ、茗花どうしてそんなにでっかくなったんだ?」



「課長、私が大きくなったんじゃありませんって。
課長が小さくなってしまったんですよ。信じられないけど・・・」


「嘘だろ・・・。俺がいったい何をしたっていうんだ!
これは夢か。夢だよな。けど・・・ここは会社か・・・。

おまえを残業させて、コーヒーを買って、おまえが飲んで、それからおまえが気を失ってしまったようだから大声をかけたら意識がなくなってしまって。

今目をあけたらこの有様だ・・・。どうなっているんだ?
へっ・・・へっくしょい! うう寒いっ。」


智房のメガネがデスクの上にあるだけで、衣類と靴は床の上に転がっていた。
つまり、小さくなってしまった現在の智房は全裸で震えている状況だった。