まひるの兄である菘いつきは、魔法履歴を調べてまひるの足取りをつかんだ。

そして、まひるが住んでいたマンションをつきとめ、そこを拠点とし、早速まひるが働いていた会社へと出かけていった。

智房に会ってすぐに話をしてもよかったのだが、いつきはまひるのためにしばらく時間を要して、智房の人間性や情報を多くつかみたかったという理由で、智房と会社でのライバルという立ち位置で時空先魔法を起動させた。

時空先魔法は菘家のみ使用許可が許されていて、一族の配偶者選びや世界にゆがみが生じたときの修正時などに発動していいことになっていた。



いつきはいつもは女性も見まがうようなローブ姿が多いのだが、智房と同じ立ち位置で接触するためビジネススーツに着替えていた。


「ふぅ。スーツっていうのは何だか窮屈な服ですねぇ。
えっと、智房の容貌はわかったし、持ち物も抜かりはナシっと。」



会社に着いてすぐに受付の女性たちに、いつきは挨拶をした。


「うわぁ・・・菘課長ってやっぱりステキね~」


「いつからここにいたんだっけ?」


「さ、さぁ・・・?でもいつも挨拶してるんだから、毎日見てるだけで幸せじゃない。」



「そ、そうよね。美形に挨拶されるのが受付の仕事よ。役得よ~ね~。」


いつきは挨拶もしたが、軽く智房のことを質問してみたのだった。


こちらの時間にして1日の無断欠勤・・・。

小さくなって別の世界へととばされていた時間はこちらでは1日だったということがわかった。


そして、その無断欠勤1日の後に、智房は課長補佐へと降格されてしまったらしいのだ。



(元の世界へもどってから降格か・・・これは魔法の暴走じゃないですね。
どういうことなのか・・・。)


購買課の部屋へと入ると、約束をしていた社長秘書がいつきを待っていた。

いつきが軽く挨拶をして、その後智房のデスクの前へと移動した。


「樋川クンの上役となる菘課長です。
仕事の分担や、すすめ方など協力しながらやってくださいという代表取締役からのメッセージです。」


「菘いつきです。上役といっても、まだこちらのやり方などぜんぜんわからない状況ですので、いろいろご指導くださいね。」



「は、はい。こちらこそ・・・はじめまして。樋川智房です。
私は、おはずかしいのですが・・・先日まで課長をしていたんですが、無断欠勤とその後の仕事内容がひどいため降格されてしまったふぬけ社員なんです。

しかし、菘さんのような方が来られて正直、ホッとしています。
部下にもう迷惑をかけることが減りますから・・・。
よろしくお願いします。」


いつきは仕事をこなしながら、智房の様子を注意深く観察した。

元気が感じられない・・・。

ときどき誰かをさがしている。

ため息をつく様子が見受けられる。


(これはもしかして・・・我が妹の存在の後遺症なのか・・・?)