慣れない立ち仕事は、身体に来る。

5時間の尊い労働を終えて部屋に帰った私は、ロフトベッドに上がる力もなく、ぐったりとクッションに沈みこんだ。

この疲労は、バイトのせいだけじゃないかもしれない。


――みずほちゃんの失恋待ちでもしてるよ。


なんでもないことのようにそう言ってくれた加治くん。

ねえ真衣子、槇田先輩もね。

真衣子につきあえないって言った時、きっとものすごい心の痛みと闘ってたと思う。

一緒にいて楽しかったんなら、なおさら。


許してあげてね、なんて私が言う立場じゃないけど。

何か槇田先輩にも、どうにもならない感情があったんだと思うの。

それがわかれば、真衣子も楽になるんじゃないかな。


なんて、私はきっと、自分が許してほしいだけだ。

加治くんに対して、精一杯のことをしたよって言ってほしいだけ。

ずるいな。


眠りの淵に引っかかりながらそんなことを考えていると、固定電話が鳴った。

携帯じゃなくて、こっちが鳴るのは珍しく、飛び起きる。



「はい」

『みずほちゃん? お久しぶり、私よ、三鷹の』

「――おばさま!」



伯母だった。

正確に言うと、父の実姉だ。


お正月と法事くらいでしか顔を合わせないけれど、弟である父を可愛がっており、何かと私たちにも気を配ってくれる人のいい伯母だ。

だけどなんでこんなところに電話なんて。

そう不思議に思いつつも、家を離れてからのことなど、訊かれるままに答えていた時、伯母が父と母について触れた。



『あの子もね、一度決めたらてこでも動かない性分だから、仕方ないのもわかるけど』

「あの、おばさま」

『でも女はこらえ性よ、慶子さんもここが踏ん張り時でしょうに』



慶子というのは私の母だ。

これが本題だったんだ、と気づいた時には遅く、立て板に水のごとく喋る伯母をせきとめるのに必死だった。



「おばさま、私ね、そのお話は、父と母がいるところでお聞きしたいです」

『あっ、そうよね。でもお母さんの昔の人の話なんて、みずほちゃんもなかなか、聞いてて複雑よね』



えっ?

子機を持つ手が、固まった。