ふうん、とベッドに頭を預けると、兄が頭を叩いてくれた。



「お前のしたいようにしてやりたいけど、そんなこと言われたって、どうしたいかお前もまだ、わかんないよな」

「お兄ちゃんは、本当にいいお医者様になるね」



優しくて敏くて、嘘がない。

両親の、自慢のお兄ちゃん。



「いつから離婚考えてたか、知ってる?」

「いや、気になるけど、訊いてない」

「お母さん、ちゃんと働いたこともないのに、お父さんと離れちゃってどうするんだろう」

「誰かもう相手がいるとか」

「やめてよ!」



私の悲鳴に驚いたのか、兄が、ごめんと急いで言った。

私も自分の剣幕に驚いた。

だって考えたくない、そんなこと。

でもそうか、離婚したら、それこそそんなの、お母さんたちの自由なんだ。

それはもう、さみしいを通り越して、正直、嫌だ。



「でも、お母さん、まだ若いもんね…」



短大を出ていわゆる腰かけOLのような就職をし、半年で父を見つけて寿退社した母は、まだ40代半ばで、見た目はさらに若い。

身内ながらに綺麗だし、家庭的なので、ああいう奥さんがほしい男の人は、いっぱいいるだろう。

でも…とぐるぐる考えだしたところで、女の勘が働いた。



「さてはお兄ちゃん、彼女いるんだ」

「いるよ、そりゃ」

「結婚とか、考えたりするの?」



照れくさいのか、そりゃまあ、とかなんとかはっきりしない返事をしながら、目をそらす。



「つれて来ないの?」

「来ようと思ってたの、この休みに」



珍しい、面白くなさそうな、すねた声が聞こえた。

気の毒に、我が家は今、とても新しい家族を迎える状態じゃないし、そもそもこんな状況、彼女には一番見せたくないだろう。