でも先輩は、やっぱりどこまでも先輩だった。

全部知っても、余計惹かれただけだった。

経験も知識もない私を相手に、さぞ面倒だっただろうに、見捨てることなく求めてくれた。

じわりと熱い涙が浮かぶ。


先輩でよかった。

お礼を言ったら変だと知りつつも、何か伝えたくて顔を上げた私を。

先輩が、甘やかすみたいに優しく、抱きしめてくれた。








「さっき濡らした服も、洗ってくといいよ」

「すみません」



この2階の水周りは、善さんのところとは繋がっておらず、こんな夜中の洗濯も、誰の迷惑にもならないらしい。

雨とお風呂でぐしょぐしょになった服と下着を洗濯機に入れて、シーツと一緒に洗ってしまうことにした。



「普通に洗っちゃっていいの?」

「はい、あっ、私やります」



戸棚から出した洗剤を受けとって、洗濯機を回しながら入れる。

再びTシャツとスエットを身に着けた先輩は、ありがと、と微笑んで部屋に戻った。

つかの間、機械の規則正しい音を聞いてから部屋をのぞくと、先輩はシーツを新しいものに替えている最中だった。

あの血の量では敷布団も汚してしまったはずで、だけど何度も謝られても先輩も困るだけだろうと、作業を手伝うにとどめる。


シャワーを借りた身体はさっぱりしているけれど、どこかまだ先輩の肌を覚えていて、服が借り物なのも手伝い、落ち着かない。

先輩がふうと息をついて、綺麗なシーツに腰を下ろした。

汗を流すついでにまた洗ったらしく、湿った髪が束になって目にかかっている。



「浴室で乾燥させれば、朝には乾いてると思うよ」

「ありがとうございます」



所在なく立ったままの私を見あげて、そう微笑まれると、他に何も言えなかった。

朝になったら帰るんだよ、と約束をとりつけられたような気がしたから。


当然、そのつもりだけど。

天候的にも時間的にも、泊めてもらうことになってしまったこの状況自体、申し訳ないわけなんだけど。

奇襲をかけた上に、あれだけわがままを言って先輩を困らせておきながら、私は。

ねだったものを、予想外にちゃんともらえてしまい、どうしたらいいのかわからなくなっていた。