ロンドンに戻ったエヴァンを待ち構えていたのは、彼の事業の補佐役であるカーター・ラスコーの容赦ない追及、もとい、亡き父から引き継いだ工場の、金銭不正使用疑惑を示すやっかいな報告書だった。
おかげでカーターのプライベートへの言及をかわすのに苦心しながら、書斎でほこりを被った十数年分の経理帳簿の山に埋もれる羽目になっている。
もうこれ以上、人任せにできない問題になっていたからだ。
カーターはエヴァンの寄宿学校時代からの親友であり、工場経営の補佐兼相談役だった。
ジェントリ階級出の彼は、珍しいプラチナブロンドの華やかな外見も手伝って、社交界のレディ達にとても人気があった。
だが、彼の涼しげなグレーの瞳はどんなときも決して沈着さを失わない。エヴァンとはある意味対照的な男だ。
古い帳簿をひっくり返していたエヴァンが、眉を潜めて目を上げた。
「どういうことだと思う? カーター?」
累積したあまりの数字に我が目を疑いたくなる。
「誰かが利益を勝手に懐に入れ続けているということでしょうね」
「やはり、だな……」