* * *


「うまくいったかな」

花子が忙しなく、髪を触って落ち着きを取り戻そうとしている。

「外からじゃ、いまいち中の様子が見えませんし……すごい音が聞こえたけど」

「たぶん、大丈夫だよ。

先輩の声が聞こえてきたし。

花子さんが出した式神、役に立ったんだよ、たぶん」

晴也が、たぶん、を二度言って、しきりに窓と後方にいる神崎を交互に一瞥する。

晴也と花子は、神崎を連れて外へと避難していたのである。

実はほんの少し前。

「先輩、大丈夫かな」

と、晴也の方から言い出したのだった。

「なんか、ぐえっ、って言ってましたね。やっぱり、晴也くんの言う通りかも」

「ね、ねえ、花子さん」

呼んで、晴也はブレザーのポケットから、来週に提出する地理のプリントを手にとった。

「これで、式神作れる?」

「えっ?」

プリントはルーズリーフよりも柔らかく、かつ、ぺらぺらだ。

たしかに命じれば、式神は刃物でも断ち切れぬ強靭な紙となるが、花子は方術には慣れていないし、成功率も低かった。

しかし、平々凡々なインテリ系の一般人がやるよりは、僧の血を引く娘がやったほうがましと言うものだ。

「ええい、ホモ先輩のため、ホモ君のプリントのため、

一か八かで、やってみます!」

「あのう、花子さん?

ホモ君のプリントって?

まさか僕がホモ君じゃないですよね?」

花子は晴也の言葉など聞きやしない。

瞼を伏せてしばらくプリントを握る手に力を入れ、そして、

「それっ!」

花子は晴也のプリント式神を、棟の入り口に向けて放ったのだった。