* * *
「それで、今の学校生活は充実してる?」
「はい」
北に寄せ集められた机と椅子。
教室の中心にぽつんと置かれた机が一つ。それを挟んで、神崎と鈴木が、本日最後の生徒相談を実施している。
「君は、クラスでもひとりでいる時の方が多いけど、友達とはそこそこ話す?」
「あんまり人とは話しませんけど、孤立はしてないので、問題ありません」
「そうかあ、なら良かった。
僕の同級生にも静かでちょっと地味な子がいてね、孤立してた子だから、
やっぱりひとりぼっちになっちゃうと、高校生活、面白くないんじゃないかなと思って」
「ありがとうございます。
けど、大丈夫です」
鈴木は前向きでかつ冷静な応答をしている。
しかし、言葉の割には、鈴木は常にうつむいており、暗鬱だ。
「クラスの女の子たち、みんな言ってましたよ。
先生は優しくてかっこいいし、この人が副担任でよかったって」
「えっ、そうかな?」
神崎が仰々しく目を丸め、いかにも心の底から驚いたようなそぶりを見せる。
鈴木は依然としてうつむき気味だったが、彼女にしては珍しく饒舌だ。
「それで、あの子たち言ってたんです。
きっと高校生の頃なんか、そりゃあもう、誰にでも優しくて、モテモテだったんじゃないかな、って」
「うーん、自分ではよくわからないんだけど、人間関係はできるだけいいふうにできるようには、務めてたつもりだよ」
神崎はさも、爽やかな好青年ばりの温容になる。
どんなに緊張していても、おのずと和らぎへいざなわれるような、そんな安堵を誘う表情である。
鈴木の口元は、ふと、気を緩めたのか上向きに歪んだ。
そして、
「じゃあ、私にも優しくさしてたつもりなんだ?」
と、男かも女かも判別がつかぬ、おぞましい声で言うや、顔をあげた。
次の瞬間、神崎があっと声をあげ、後方に飛び退く。
「おっ、お前は!」
露わになった鈴木の顔を凝視した。
小さい目。分厚く色の悪い唇。黒い肌。ずんぐりとした体型。お世辞にも、スタイルの整った華の女子高生とは呼べない。
その瞳は、怨念の焔をたぎらせていた。
「覚えてる?この教室……。
あなた、ここでみんなと一緒に、ゴミをぶつけたよね。
私の机に、ブスとか、デブとかって、書いたよね。油性のマジックで。
いつも大勢の子と群がって、臭いとかキモイとか、誰かさんの悪口言ってたよね?
やめてくれるように懇願したのに、やめてくれなかったよね?
ブスで目立たない人は、うさが溜まった学生の、かっこうの獲物だったんだろうね。
ねえ、神崎くん。
人間関係はできるだけよくしたいって言ってたけど、あれもその一環だって、言いたいの?」
長々と、鈴木ーーーの、姿をした、おぞましい声の主は、青ざめた神崎に詰め寄る。
「よかったねぇ、高校でも、職場でも、あなたは誰にでもすかれる人気者で……。
人殺しのくせに、顔が良けりゃそれで、周りを味方につけられるんだからね」
「おっ、俺が殺したんじゃない!」
震撼しながらも、ついに素に戻った神崎が訴える。
「あっ、あれは俺のせいじゃない!
勝手に、勝手にお前が、この教室で、ぶっ倒れて死んだんじゃないか!」
「馬鹿なんですか?
自殺と事故死の区別もつかないなんて」
身の毛のよだつ声色で、鈴木もどきが神崎を追い詰める。


