「その人が、教室の隅に這いつくばって、がりがりと床を掻いてたんです」

「うちの高校の制服着たやつが、この教室で、ゆかをかいとった、と」

吉郎は、むむむ、と思案して見せる。傍で、鈴木は穴蔵から何かを伺うような目つきで、吉郎の仏頂面を覗いている。

そして、

「あのう……」

と切り出した。

「あ、あの、もう帰ってもいいですか?

ちょっとこれ以上ここには」

ここにはいたくない、と言いたいのだろう。

「……うん、まあええわ。怖かったやろ、はよ家に帰りいや」

鈴木の気持ちを最優先にして、吉郎は怯えたままの鈴木を先に帰したのだった。