時折ちらりと、吉郎が鈴木に視線を流す。鈴木は相も変わらず腰が低い。

(やっぱり怖がってんのかな)

 どうしても、吉郎は初対面の者に粗暴な印象と恋愛的な好感を持たせがちである。損であり得だ。

しかしどうしてか、鈴木は吉郎はともかく、柔和で華美な面立ちの花子にさえ恐れ入っているふうだった。

 彼女は気が小さい子なのだ、と言ってしまえばそれまでだが、晴也はやはり、確たる証拠がない限りは納得できない。

「なあ鈴木さん」

 吉郎は鈴木に話を振る。

「こんなこと聞いて悪いんやけど、あんた、化けもんがどんな姿しとったか、覚えとるか?」

 問われて---鈴木は猫背のまま声を震わせた。

「な、長い黒髪に真っ赤な顔で、舌を剥き出しにしてました。あと……うちの、学校の、制服を着てて」

「うちの制服?」

「はい……」

 ここは教室であり、問いかける吉郎も鈴木の心情を配慮してなのか随分と温厚な声音だ。

 だが彼女が醸し出している雰囲気は間違いなく、一糸の光しか差し込まぬ取調室に座らされた事件関係者そのものだった。