「は、はい」
ぽかんとして、晴也はなんとか籠を抱えている。
平安時代から飛び出してきたような少女、雅は、晴也の安全を確認するや、うすっぺらい胸を撫で下ろした。
「良かった、器具が割れたら大事ですからね。あんな地味な形なのに、結構お金かかりますし」
「はあ」
「あ、もしや。あなたは入学式で喋ってた人ですか?」
唐突に雅が、なぜか顔を煌めかせてきた。どうして急にそんなことを聞いてくるのか。無論、この時の晴也には考えつけぬ。
「はい……」
「やっぱり!そんでもって、その横にいるのは、バレー部のエースの、次に偉い細川さんですな」
その面差しはそこらのモデルよりも格段に秀でている。しかしその異質なまでのはしゃぎようは、こちらの好感を引け目に変えた。
「お二人とも、仲睦まじいんですね」
仲睦まじいと言ってしまうと、なんだか違う意味の友好関係のように聞いて取れてしまう。
ーーまさかね。
僕の考えすぎだな、きっと。と、嫌でも想起される吉郎の某発言を、頭から振り払った。
細川はといえば、すっかり見とれてしまったようで、積極的に話しかけてきてくれる雅との会話に夢中だった。
そして、
「あ、じゃあそろそろ行きますんで。また次にあった時に」
雅はしばらく喋ったのちに晴也と細川に手をふり、彼らのすぐ近傍にあるトイレへと駆け込んで行った。
細川はさも嬉しそうに晴也の傍に並び、再び足を進めるのだった。
「いやあ、すげえ可愛かったよなあ、雅さん」
「あの子、どこの中学の子だったっけ」
「この近くの中学だったはずだ。確か」
「ねえ、細川って、なんでそうも情報に精通してるんだ?」
「なあに。俺は昔っから先輩にとりいるのが上手いのさ。色々な話を聞くんだよ、先輩から」
だから、吉郎のことも他の生徒の情報にも、細川は通じているのだという。
生ける小さなデータバンクだ。


