それさえどうにかなれば、確実に女子の人気は獲得できる男だろう。

 しかし男子からしてみれば、良い容姿の男には何かしら欠点があった方が好感を持てるのだろう。

吉郎自身その性癖のおかげで、

男子生徒たちからの嫉妬の目に晒されずに済んでいるのだと思しい。

 ---と、平穏な吉郎の学園生活を想像していた晴也の前を、すっと人の影がかすめた。

 どん、と驚いた晴也は軽くその影に衝突する。

「うわあ!」

 体の均衡を崩し、危うく実験器具を落下させそうになった。

細川が咄嗟に籠を支えてくれなければ、はみ出したフラスコがいの一番に滑り落ち、割れていたところである。

「ああっ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」

 ぶつかってきた影は女子生徒であった。

彼女は大慌てで晴也の許へと駆け寄ってきた。

 見れば---図抜けて綺麗な美少女だった。

豊かな黒髪を背の辺りで一つに括り、

小さく華奢な顔に、すらりとした痩躯。

大きな瞳が眼孔に埋めこまれており、

小麦色の肌はいたって健康的だった。

「雅(みやび)さんだ……」

 細川が呆気にとられて、そう呟いた。

「雅さん?」

はて、それはこの美少女の名であろうか。小首を捻る晴也だったが、確かにそのなのとおりの雅な少女だった。

「……うん?本当に大丈夫ですか?」

雅が桜も色褪せる細やかな優しい表情で問いかける。