おっ、陰陽部?

 晴也はそこで、己が選択を誤ったことに白目を剥いた。

(『ほーし』って『方士』のことかい!!)

 百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。

まずは自分で見て、部活動の全体的な内容を把握してから、所属を決定するべきだった。

「なあハルヤデス君、大丈夫かあ?」

 蒼白になって床にひざまづく、まさに悲劇のヒーローさながらの雰囲気を纏い始めた晴也に、吉郎が声を掛ける。

「もう、大丈夫じゃないですよ。ちゃんと漢字で書いてくれなきゃ……。

会社だったら今頃クレームの嵐ですよ。

クレームが嵐になって、その嵐が黄砂と花粉を引き連れて上陸してきそうな域です」

「いや、苦情で嵐は起こらへんで。

ちょっと例え悪かったな、今の」

「それぐらいショッキングだったって、分かってくださいよ」

 長蛇の如き溜め息を洩らし、晴也は頭を垂れた。

そんな後輩の姿にいささかでも罪悪感を覚えたのか、吉郎はとりあえず一礼する。

「あのお、なんかごめんな?ほんとに。

でもさ、うちの部も、やってみれば楽しいかもしれへんで?」

「だいたい、方士が何かすら分からない僕に、この部の面白味を理解しろって方が無理ですって」

「まあまあ、そんな北極みたいに冷たくならんと……。今から説明するで、よく聞いとってえや」

 晴也はうつむけていた顔を上げる。すっかり好奇心の失せた、茹でほうれん草のような面である。

「方士ってのは、唐(もろこし)、つまりは平安時代の中国で言う、陰陽師の事や。

あ、陰陽師って知っとるか?」

「多少は知ってます」

「そかそか。やからな、この学校方士活動部は、いわば陰陽師にかかわる活動をする部活や」

「はあ……」

 晴也の脳裏に泡沫となって浮かぶ文字があった。

マニア。その単語一つに尽きる。

最近では歴史をこよなく愛する歴女とかいうものもいるし、陰陽師をこよなく愛する陰陽マニアが存在していてもなんら齟齬はない。

「で、どんな活動ですか。占いとか妖怪退治でもするんですか」

「なんか急に嫌な奴になったな、おい。

言っとくけど、陰陽師イコール妖怪退治屋、なんて考えは間違ってるで。

ほんとに妖怪が出て困ったときは、そりゃ頑張って退けたんやろうけど、実際はお祓いとか暦とかが主流やったんや。

官人陰陽師にはな」

 ひとしきり喋って、吉郎は菓子をつまみ食う。

「やから、入部したてのハルヤデス君には、俺がマンツーマンで、簡単な式神(しきがみ)の作り方を教えたるわ」

「い、いや、いいですよ。

てかマンツーマンって、先輩しかいないじゃないですか、この部活」

「遠慮すんなや。

なあに、人型の式神なんて、集中すりゃ簡単に作れるでえ。

俺なんか小さいころには、まんまを言うより先に式神作ったんやで」

「なんか嘘くさ……って、先輩肩さわんないでください!」

「ほら、はよやるで。

意外と楽しくなってくるでなあ」

「あの、そこに両肩を触る意味があるんですか?

なんかぞわっとする手つきなんですけど。

気持ち悪いんですけど」

 大丈夫やって、とだけ言われ、晴也はほとんど強制的に式神作り講座を受けるはめになったのだった。