助ける気などさらさらなかった。自分だけでも手一杯だというのに。
どうしたことかあの黒猫は悟り顔だった。
「……まさかね」
人間じゃないもの、たまたまそう見えただけかも知れないわ。うん、きっとそうよ。なにか腹の居所も悪かったのかも。
「っ!」
薔薇の棘が腕に刺さる。
痛い……。
考え事をしていたせいで、注意が散漫になっていたようだ。
黒い服なので、血が出ているのか良く分からない。
その時、近くでガサガサッと音がした。
「誰かそこに居るのか?」
警備員の声がする。やけに若い男の声だ。
見つかる……!
「ん?君、どうしたのかな?何故ここに居るんだい」
「……」
後ろは建物、前には薔薇が沢山咲いており、そこに警備員まできてしまった。……もう逃げ場がない。
20代後半程の警備服を来た男は帽子を深くかぶっているため、表情が読み取れない。
「……腕に怪我までして、まるで野良猫のようだな」
え?
「腕を出しなさい。薬はないが止血はできる」
言われた通りに服を捲り、腕を出した。
棘はどうやら刺さってないようで、切れていただけだったようだ。
ハンカチが赤色に染まる。
「浅くてよかったな。これでよし」
兄のような人がこんな言葉遣いの人を寄越すわけが無い。この人、どこか怪しい。
「……あなたは誰なの。警備員じゃないでしょ」
すると男は深くかぶっていた帽子を更に深くし、口元で笑みを浮かべた。
「怪盗って言ったら信じるかい?運がいいな、お前。黒から教えて貰ったんだよ、お前が持ってるって」
「持ってるって何をよ、いったいなんの話よ?」
それにこの男、今怪盗って言った?
ルパンの真似事でもしているっていうの?
すると、男は私の右手に視線を向けた。
「お前のその指輪だよ。俺が盗むつもりでここに来たんだっつうの。じゃなかったらこんな隔離されてる所普通来ないって」
彼はそう言ってカラカラと笑った。