(……熱い……)


湿っぽい空気が、強い魔力によって霧になり、オーランドの体にまとわりつく。


冷たいと思う間もなく、その水分はぐるぐると渦巻く魔力の熱で蒸された。


この感覚を、オーランドは覚えていた。


閉じていたまぶたを、ゆっくりと開ける。


すると目の前に広がったのは、岩ばかりの背景。


その真ん中で光を放つ、魔法陣。


上に立つのは、兄に似た金髪の男。
そして……


(僕や……)


5歳くらいの、自分だとオーランドは悟った。


(これは、夢やな)


覚えている。
忘れたくても、忘れられない。


あれは、過去の自分と、まだ若かった頃の父親だ。


どうしてここに来たのかも、あの魔法陣でこれから何が行われるのかも、オーランドはわかっている。


(夢やてわかってても、覚めんもんやなあ)


オーランドはこの洞窟から逃げたかった。


『嫌や、怖い。
お父ちゃん、やめて』


小さな自分の願いは、父親には届かなかった。


(見たくない……はよ覚めろ)


オーランドは耳をふさぎ、まぶたを閉じた。


もう何度、同じ夢を見ただろうか。


まるで、見えない何かの力が、過去をオーランドに忘れさせまいと、定期的にプログラミングしていったかのように……


あの小さなオーランドが今の姿になるまで、1年に1度は、同じ夢を見た。


『大丈夫や、オーランド』


指の隙間から、父親の声が聞こえた。


(もうええ、やめろ)


オーランドは頭の中で怒鳴る。