「いくら美人さんでも、強引なんは好きやないねん!」
オーランドは勢いよくドアを開け、彼女をステッキごと押した。
基本、女性には暴力をふるいたくないが、これくらいは仕方がない。
オーランドは女性が杖を持ったまましりもちをついている間にシドをひっつかみ、バスルームから出てきたコートニーを抱き上げる。
「ちょ、いきなりなによう!」
米俵のごとく抱えられたコートニーに一言も返さず、彼女の靴をつかむ。
するとオーランドは鍵もかけずに、アパートから逃走した。
無駄に先の尖ったオーランドの靴が、錆びた階段を降りると、ガンガンとうるさい音がする。
コートニーは何事かと、顔を上げた。
見えたのは、オーランドの背後。
ドアの前からこちらをにらむ、赤い唇の女性……。
「…………っ!」
コートニーの喉の奥を、細い息が通っていった。
オーランドはそれを聞き逃さない。
やっぱり、あいつは……。
「目ぇあわすな!とにかく、逃げるで!」
コートニーはオーランドの肩に顔を押し付け、何も見ないようにした。
オーランドは何度も通行人に指をさされ、本気で通報されそうになりながら、ロンドンの端っこを駆け抜けた。
ああ……平穏な日々なんて、一日だって続かないじゃないか。



