「藍…?ソロソロ機嫌直したら?」

「嫌……」

「……藍、のぼせるよ?そんな、顔まで何回も潜ってたら…」

ブクブクと、僕が温泉の中でお湯を鳴らす。弾ける泡の水滴が、たまに鼻の中に入る。

「だって……。直樹が、僕の事女の子みたいって言うんだもん……」

「藍は、女の子みたいじゃないよ」

「蓮、さっき僕に女の子みたいって言ったじゃん。言った本人が、僕に『女の子みたいじゃないよ』って言っても説得力無いんだけど…。そりぁ、優花には言われても許せるけどさ。皆は、良いよね。男らしい顔で、男らしい身体してるんだから…。僕なんて、女らしい顔で、女らしい身体してるんだ……。僕なんて……」

「ぅわぁぁあ。本当に、藍ごめんって!ちょっと、皆も藍に何か言ってよぉ……」

「あっ、藍は格好いいよ。本当に!男らしい顔してるって」

雪斗の、嘘に近いフォローが入る。

「……………」

「ね?ね?藍は、女…じゃなくて。男らしい顔してるよね?皆もそう思うよね?」

雪斗、今女って完璧に言ったよね……。

「別に、どっちでも良いじゃん。女らしい顔が藍の良い所だよ」

「要ぇぇぇ!!」

「そうだよ。藍の良い所だよ」

「直樹ぃぃぃ!!」

「もう、良いよ。僕なんて、女らしい顔してるんだ……。僕は、今日の事絶対に忘れないね。皆に、女の子みたいってバカにされたんだから…!僕のお墓まで、持って行くから。この思い出をね…!」

「もういい加減機嫌直せって。チビ」

「ほら。僕は、チビだから女の子みたいって言われるんだ…。皆の身長少し分けてよ!」

「リアルに痛くて死ぬって。……ちょっと、藍君!?目が本気だよ!?」

「僕は…肌白いし…。女の子みたいな身体してるし。……女の子みたいな顔してるんだ……」

「いや、藍は普通の女の子より可愛いよ…。って、俺今ヤバい事言っちゃった!藍、怒らないでー!!………あぁ゛ぁあぁあ゛ー」

僕は、直樹の背中に乗って腕を後ろに引っ張る。僕が、女の子みたいってふざけてる…。

「ちょっと、藍!!直樹がマジでこの世から消えちゃいそうだって!」

「…うるさいなぁ。散々僕をバカにしといてさぁ……。僕は、女の子じゃ無いの!」

「いだだだだ!!!ギブ、ギブアップ」

直樹の叫び声と同時に、僕の体が宙に浮く。……風真に抱っこされたし。

「おい。チビ。いい加減機嫌直せって」

「ぁあぁぁ。俺、川が見えたよ。綺麗なお花畑と、蝶とか……」

「そのまま、川に溺れてしまえ…」

「それ、幼なじみに言う言葉じゃないよね?藍君!?」

「ふん。バーカ」

「おい。俺は、もうあがるぞ…。バカみたいな喧嘩を見てたらのぼせた」

会長の顔が真っ赤だった。………相当のぼせてるよね……。

「じゃあ、皆あがろうか…。風真、藍をちゃんと連れてきてね?」

「……あぁ。お前、軽いな…」

「うるさい……。僕を、降ろせ」

「それは、出来ねぇよ。温泉から出てからな」

「………降ろせ…降ろせ…」

「ほら、今出るから待てって…。ほらよっと…」

「……………」

早く濡れた体拭こう…。髪の毛も、僕が一番長いし…。急がないと……。

「……クシュン」

あぁあ…。体冷えちゃった……。寒い……。

「可愛いクシャミだな。お前って」

「うるさい……」

風真を下から睨みつける。

「早く着替えろよ~」

「……あんまり、僕の方見ないでね!皆…」

見られて、ろくな事が無い。どうせ、皆僕に『女の子みたい』とか、言ってくるんだ。
僕は、素早くホテル指定の浴衣?を着る。

「ドライヤー使って良い?」

「全然良いよ」

僕は、ドライヤーの置いてある所に座る。目の前には、鏡がある。僕は、ちょっとダケ自分の顔を見る…。

………確かに、男には少ないクリッとした目。細くて繊細な髪の毛…。そして男に少ない色白な肌……。

「あーもー。何なんだよ!!僕の顔は!!」

「ぁっ……藍?どうしたの?」

蓮が、僕に近寄る。鏡越しで僕は、蓮の顔を見る。……スッとスッキリした鼻に、男らしい格好いい目。……太いのに、サラサラな髪の毛。

「はあぁぁぁ……。僕は、何で女の子みたいなんだよぉぉ………」

「大丈夫だって…。そこまで気にする事じゃ無いって。ね?」