ライラックをあなたに…



暫くすると、彼がカップを手にして戻って来た。

勿論、中身はあのハーブティー。


コトンと音を立て、テーブルの上にカップを置く彼。

何度も想い描いた彼の姿が目の前にある。


思わず嬉しくなってじっと見つめてると、彼とバチッと視線が合う。


「冷めないうちにどうぞ」

「……ありがと」


彼は自分のカップを握りしめたまま、私の左斜め横に腰を下ろす。

その仕草も何度も想い描いたもの。

長い脚を折りたたむようにして胡坐を掻いた。


彼はマフラーで口元を覆うように肩を竦め、上目遣いで私を見る。

そして、ゆっくりと口を開いた。



「そろそろ、………返事を聞いてもいいかな?」


彼の言葉に一瞬、時が止まったように感じた。

彼が旅立つ前に言った言葉。


『見合う男になって戻って来るから。その時、………寿々さんの返事を聞かせてよ』


忘れた訳じゃ無い。

むしろ、その時の彼の顔を鮮明に覚えている。


彼が私に心を打ち明けてくれたように、私も彼に気持ちを伝えなければならない。

きっと、今がその時なんだ。


じっと彼が見つめる中、私は目の前のカップを手にした。


そして――――――。