子よ、子よ


汝の掌中にある緋の花びらは我の名残


汝の眼前に立つ桜の樹は我の墓標


我の身体が溶け込んでいく


我が身体からあふれ 全てが流れていく―何処へ?


とめどない時の流れ


止める術も無いこの星の血脈


それはやがて「無」の中へ


「無」と化した我が新たな「存在」を創り出す


何千何万の魂の土がその刹那を待っている


子よ 風を紡ぐ命ある者よ


我は求めよう


生の胎動と魂の回帰を


かりそめの幻を彷徨うものの原点を


汝らに降りそそぐやわらかな光の中に


そして 天彦翔めぐる天空へと 我は逝く


―それ以上のものは何も存在しない 唯一「私」だけ―



(2000年度 第23号「薫風」収録)