「ま、守って下さい……河野しゃま…」





心臓の音も、赤いだろう顔も、早く隠したくて、腑に落ちないまま晴が要求した言葉を口にすれば、





「『しゃま』って!」





あたしがかんだ言葉に大ウケした晴が、あたしのアゴから手を離し、元の位置に戻って大笑いしてる。




ちょ、ちょっとぉ─────っ!!

かむほど緊張させたのは晴でしょ!

乙女の純情を弄(もてあそ)んで!





そんなこと口が裂けても言えないし。

かんだのも恥かしいし。





俯いたまま口を尖らせてたあたしのアゴを晴はもう一度掴んでクイッと持ち上げた。





「お前さ、早く慣れろよこういうの」


「なっ!?……な、な?」





しれっとそう言う晴を見つめたまま目が見開いていく。




なにいってんの晴?

こ、こ、こんなの慣れる訳ないよ?





あたしの唯一の友達だった春と春ちゃんですらこんなに至近距離まで顔と顔をつき合わせたことないってば!


晴はあたしのアゴから手を離してから、話し出した。





「店長は俺とお前に、客前でこういうパフォーマンスをさせたいらしいよ」


「んっ?へ?」


「お前見たろ?あのBLの本。表紙の男2人がこんな感じだったろ?」


「……ああっ!」





あの日、晴が持ってたBLの本。



“気の弱そうな男の子のアゴを掴んで、クイッて持ち上げてるイケメン”



そんな構図のイラストだった!