「晴?」


「ほら、早く家に入れよ。もう遅いから」


「あ、うん」





気のせいだったかな?


あたしは晴とバイバイをして、部屋のある2階に上がって通路を歩きながら下を見た。



晴がまださっき分かれた場所にいる。

もしかしてあたしが部屋に入るまで待っててくれるとか?



ここオートロックの玄関だから、大丈夫なのに。





部屋の前に着いてあたしは晴に大きく手を振った。

でも晴は“早く入れ”みたいな手振りをしてくる。



もう大丈夫だってば。



そう思いながら、顔がまたニヤけてしまう。



玄関の鍵を開けて、もう一回晴を振り返ると、今度は晴も軽く手を上げた。


一旦家に入って真っ暗な部屋に電気を付けてからもう一度玄関の扉をそっと開いた。




駅の方向に向かう晴の背中が見える。


いつもは傍若無人な晴なのに、たまに、あたしを女の子扱いしてくれる。




桜の木を見せてくれた時。


初めて、プレシャス行った時もセクハラ店長から守ってくれた。


そして今日も。



自然と緩む頬が止められない。



小さくなっていく晴の背中に「ありがとう」って呟いた。