あたしはもう一度鏡に向き直る。



……あたしだってバレてなかったし、女だってバレてなかった。

完全に男の子だって思ってたよね?




普通なら、男に間違えられるなんて屈辱かもしれないけど。

今、鏡に映るあたしは隠し切れない程、頬が緩んでる。





だって、眼鏡を取っても、髪形を変えても、いまいち変わりきれなかったあたしが、やっと少し変身出来た様な気がしたから。



心にほんの少し“希望”っていう温もりが灯された。




「じゃ、俺も入ってきます」





そう言いながら、いつの間にかカフェの制服に着替えてたリツキさんもクールな表情のまま店に入っていった。





「桃佳ちゃん、アルバイトの件考えといて。1週間以内に返事ちょうだい。待ってるから」





そう言いながら、あたしに、時給のこととか、バイトの決まり事が書いてある契約書を渡してから店長も店に入っていく。



そして、この休憩所件更衣室には、晴とあたしだけになった。






「…俺も店に戻るから、気をつけて帰れよ」


「う、うん……」






晴があたしの頭からウイッグをスポッと外して休憩用のテーブルの上に置く。

そして、店の外に出られる裏口の場所を指差して「そこ出口だから」と言うと、店へと続く入り口に向かって歩き出した。




慌ててその背中を呼び止める。