祐樹先輩のお父さんは大きな会社の経営者。


だから、小学校の頃から、“こいつの近くにいたら新しいゲーム貸してもらえる”とか、“おやつをおごってもらえる”とか、そんな考えの人ばかりが祐樹先輩の近くに集まってたらしくて。


祐樹先輩がそんな取り巻きに、嫌悪感を抱き始めた頃、晴と出会った。


晴は、祐樹先輩をそいう目で見ることはなくて、祐樹先輩は晴の傍が居心地良くて、ずっと一緒にいるようになったらしい。




《戸籍上本物の兄弟になってからの方が他人みたいになってしまったから》




“本当の友達は晴だけ”?


祐樹先輩は、過去一度でも、晴のことをそんな風に思ってたのなら、どうして?



あたしの中に芽生えた違和感はどんどん大きくなってくる。



あたしも美月先輩も無言になる中で、電話の向こうで、鼻をすする音が聞こえてきた。





「美月先輩、晴の所に行ってあげて下さい。晴はきっと待ってると思います」


《……吉丘さんは行かないの?》


「晴はもう、あたしの顔なんて見たくないと思うから…」


《…え?》





自分で言って悲しくなった。





「祐樹先輩のことはあたしが引きつけておきますから…」


《え、あ、ちょっと……》





祐樹先輩には、言いたいことも聞きたいこともたくさんある。


あたしは、祐樹先輩ときちんと話しをしなきゃ。



美月先輩との電話を終了させると、携帯の画面に着信履歴から引っ張り出したアドレスを表示させた。



祐樹先輩…。



あの時、暗がりの中で見た表情を思い出すだけで、体が自然と震えてくる。



でも、覚悟を決めなきゃ。



深呼吸をしてから通話ボタンにタッチする。



2、3回の呼び出しコール後、その声は聞こえてきた。