それなのに、やり返すことも、抵抗することもなく祐樹先輩に殴られる晴。




それを仕方ない事だって思ってる?

それどころか、全部自分のせいだって思ってる?



そんな風に思う様になるまで、晴は一体どれくらい周りの人達から、お父さんのことで傷つけられたのだろう?





「もしかして、祐樹先輩に東京の大学へ行けって言われたとか?」





あたしの質問に晴は静かに首を振る。





「俺が家から出れば、祐樹も落ち着くだろうし、みんなを危険にさらすこともなくなるから」


「そんな…」





晴は、あんなことをされてもまだ、祐樹先輩を友達として大切に思ってる。


お姉さんと、祐樹先輩、祐樹先輩のお父さん。




いまの家族を守るためには、こうするのが一番だと思ってるんだね?


正直、祐樹先輩から離れるのはいいと思う。

でもそんな風にお姉さんから離れたら、晴は本当に家族ってものを失うよ?



晴がどうして奨学金のある大学を選んだのか、一人暮らしのお金まで自分でバイトして貯めてるのか、その理由が分かった。


これ以上迷惑を掛けられないって思ってるんだ。




ねぇ晴…。

そんな風に考えてて辛くない?


思いっきり誰かに甘えたくなる瞬間ってないの?



もしかして晴は人に甘えたことないんじゃないの?





「なぁ、ケーキ食おうか」


「あ、う、うん。そだね」





晴の言葉で、ハッと我に返った。

顔を上げると、少し不安そうな顔をした晴が、あたしの表情を見てた。




そしてそのまま立ち上がった晴は、キッチンに向かっていった。