「良かったな。菩薩様が抜けた人で。本当は弁償くらいはさせた方がお前のためになると思うけどな」





そう言ってイジワルな笑顔で振り向いた晴に、唇を尖らせて見せる。


だってそうでもして悪態つかないと、その笑顔であたしの頬は簡単に真っ赤に染まってしまうから。





「わぁっ!ハルくんが笑ってるー!はじめて見た!」


「あんな顔して笑うんだー可愛い」


「あんな風に笑顔を引き出せるのってやっぱモカくんだけだよねー」





お客さん達のそんな声が聞こえてくる。



あたしに晴を笑顔に出来る力があるとは思えないけど、あたしはいつでも晴を笑顔にしたいと思っている。

一緒に笑い合いたいって思っている。




それはあたしの願い。



…だから、大切なこと忘れちゃいけないんだって思う。






あの日、パソコンルームで見たことはショックだったけど、春と春ちゃんの時みたいに、その現実から逃げちゃダメなんだ。




春と春ちゃんから逃げた時、この手に残ったものは“虚無感”と“後悔”だけだった。




晴との出会いをそんなものにしたくない。

晴が東京に行ってしまうまでは一緒にたくさん笑い合いたい。

晴の中にあたしを少しでも刻んでおきたい。


例え、晴の中であたしが一番の存在になれなくても、それでいいんだ。




ただ傍にいたいよ。

それが今のあたしの一番の願い────