店長がイスから立ち上がる。





「…モカ、ハルが何のためにここでバイトしてるか覚えてるか?」





その言葉を聞いて、頷くしか出来なかった。

もちろん…覚えてる。





「もうすぐ、あいつは東京の大学に行ってしまうぞ。ハルと何があったのかは知らないけど、仲良くしろよ」





そう一言言い残して、店長は先に店に戻っていった。





「店長、気付いてたんだ…」





独り言が、休憩室に響いてすぐに消えた。


あたしがおかしくなってる理由が晴関係だろうって気付いてたんだ?

あたしはそんなに分かり易いのかと思うと恥ずかしい。




でもそんなことよりも、普段あまり思い出さないようにしてた事実を店長に突きつけられて動揺してしまった。




関西のここから、東京は遠い──




店に戻ると、あたしの割ったカップはもうすでに片付けられてて綺麗になっていた。





「晴…ごめんね。ありがとう」





お客さんが帰った後のテーブルを片付けてた晴に近付いてそう言うと、晴はチラッとあたしを見た後、すぐに自分の手元に視線を戻してから口を開いた。





「怒られたの?」


「ううん、軽く注意された程度だった。クビにもならなかったよ。店長は菩薩様並みに心の広い人だったよ」





あたしがそう言うと、晴は「あれが菩薩様?」とカウンターの奥にいる店長を指さしながら噴出した。


“菩薩様”は今、リツキさんに言葉攻めで苛められてシュンとしてる。


その姿に思わずあたしも噴出してしまった。