「“はる”って俺のことじゃねぇよ…」


「え?」


「春夏秋冬の“春”」


「……へ?“春”?」





そう口にして思い出すのは、


『吉丘!』


そう言いながら微笑む優しい“春”の笑顔。




そして、その笑顔を思い出せば、まるで条件反射の様にあたしの頬は熱くなる。



赤くなってるだろう顔を晴がジッと見てる。



心を覗かれてしまいそうな晴の視線に耐えられなくなって、今度はあたしがその視線を逸らせた。





「……あの日、まだよく知りもしない俺のこと“はる”って呼ばせてくれとあんなに詰め寄ってきたのは、そいつが関係してんだろ?」





あの日──

晴に初めて会った日──





『ねぇ、名前、フルネームはなんて言うの?』


『…河野“はる”』


『“はる”って言うの?漢字は?春夏秋冬の“春”?』




『ねぇ、あなたのこと“はる”って呼んでいい?』





晴はあたしの言葉から“春”の存在に勘付いてたんだ?



それに気付いても何にも言えないままでいるあたし。

合わせてた視線が泳ぎ始める。




あたし、動揺してる…。

晴に春の存在を知られてものすごく動揺してる。



春は前の学校の友達で、好きになった人。




そうきちんと、晴の疑問に答えればいいのに。


晴ならきっと「ふーん」くらいで気にもせず、聞き流してくれるのに…。