黒猫のアリア




時計塔からは確実に見えないであろうところまで来て、モルペウスはやっと立ち止まった。もちろん屋根の上。私は大きく息を吐いてその場に腰を下ろした。


「あー疲れた」

気力も体力も大分使い果たしていた。私は目元の仮面を外してロンドンの街を見下ろす。
やっと肩の力が抜けたらしく、モルペウスもふう、と息を吐いてから私の隣に座った。


「いやーありがとねコインちゃん。おかげで上手くいったよ」

嬉しそうにお礼を述べるモルペウスを横目で一瞥してからロンドンの街に視線を戻す。


「お役に立てたんならよかったですー」

もう二度とやらないけどね。

少し嫌味っぽく言うと、モルペウスはくすりと笑って仮面を取った。


「今夜の仕事が、誰かの笑顔に繋がるといいね」

どこまでもまっすぐなその言葉に、私は呆れ返って笑ってしまった。


「犯罪者が何言ってんだか」

「ごもっとも」

茶化すような言い方に、モルペウスも笑いながら頷く。

でも本当は。
私も同じことを思っていた。