黒猫のアリア




「正確には俺が、ね。コインちゃんは俺に捕まってるだけでいいよ」

余計不安だ。
しかし他に脱出方法はない。警備隊の声が真下から聞こえる。ここに来るのも時間の問題だ。

私は覚悟を決めた。
私が金の鐘を抱え、モルペウスにしがみつく。モルペウスは私を片手で抱えてロープに手をかけた。


「行くよ」

警備隊のどたどたという足音が近づいてくる。私は頷いた。

モルペウスがとん、と窓枠を蹴って、ロープに全体重がかかる。ぎし、と嫌な音がしてから、ロープはものすごい速度で滑り始めた。
ぶおお、と風の音が耳元で聞こえる。急速に迫り来るロンドンの街に私は思わず目を瞑り、モルペウスにしがみついた。

やがて速度が落ち、私たちはとある家の屋根の上へ無事着地した。モルペウスはすぐさまロープをナイフで切っていた。ロープが伸びる先を警備隊に判らなくさせるためだろう。
モルペウスの腕から降りた私は、その場にへなへなと座り込んだ。


「あんたにはもう二度と手を貸さない……」

正直に言おう。めちゃくちゃ怖かった。

そんな私に苦笑すると、モルペウスは座り込んだ私の目線に合わせるようにしてしゃがんだ。


「ごめんね。それでお疲れのところ悪いんだけど、ここにいるとすぐバレちゃいそうだから、もうちょっと移動するよ。あ、それ持つから」

私は渋々立ち上がる。私から金の鐘を受け取ってから、モルペウスは私の前を走り出した。