だけど今、好きな人の腕の中にいることは事実で。
風が吹くたび、翼先輩に似合う香水が香る。
あぁ、風邪ひいてよかったな、なんて思ったりするんだ。
消毒液みたいな匂いがして、ゆっくり目を開くと保健室についたらしい。
そっと、大切なものを扱うみたいに。
優しくベッドに寝かせてくれた翼先輩。
「翼、先輩……」
「ん?」
いつも優しいけど、いつも以上に優しい声。
それに安心するけど、離れてしまった手が寂しくて。
風邪の時は不安になるっていうけど。それもあるけど。
翼先輩の温かさを、知ってしまったからかもしれない。



