白狐のアリア

 野営地を抜け、近くの森の奥に、迷いなく進む。頭の中でずっと、女の声が白火を呼んでいた。


「失礼ですが、主、どちらへ……?」

「俺にも分からん」

「は?」

「だが頭の中でしきりに俺の名を呼ぶ女がいる。煩くて叶わんから、文句を言いにいくまでだ」

「念、ですか……」

「そんなことできる妖など限られているし、それにこれほど遠くから俺だけに念を送れる者を、俺は知らない。念のためお前を連れてきたというわけだ。いいな、十分警戒しろ」


 しっかり頷くと、牛鬼は先ほどよりも厳しい面持ちで、いつでも抜刀できるよう柄に手をかけながら歩いた。

 おそらくそろそろのはず、と思ったところ、突然視界が開けた。


「あれは……」


 となりで牛鬼の呆然としたような声がする。無理もない。白火も今、目の前にいる存在に目を疑った。


「天女……?」