白狐のアリア

(らしくもない、夢でも見たか?)


 自分でそう思いつつ、壁に背を預け目を閉じる。と、再びあの声が白火の名を呼んだ。


――聞こえますか、白火や


(幻聴では、無い!)


 今度こそ立ち上がると、不思議そうに見上げてくる藻女の頭を撫でた。


「お兄さま?」

「すぐ戻る」


 そういうと、愛用の刀を持って外に出た。


「牛鬼! 烏!」

「「こちらに」」

「少々ここを離れる。烏天狗、車に就き藻女を守れ」

「はッ」

「牛鬼は俺と共に来い」


 頷くと、烏天狗は牛車の上に、牛鬼は静かに立ち上がって白火の半歩後ろについた。