白狐のアリア

 そのときアリアはやっと白火の手に握られているものに気がついた。たわわな赤い果実を実らせた枝と、小さな黒いベリー。

 朝食をとってきてくれたのだ、とアリアは思った。


「あ、ありがとうございます」


 再び礼を口にして枝に手を伸ばす――

ヒョイッ

――が、アリアの手は空を切った。ぱちくりと瞬きをして、もう一度枝に手を伸ばす。

ヒョイッ


「……あ、あの…何を?」


 アリアが枝を取ろうとする度それをかわす白火は、究極なまでの無表情だ。元が美しいだけに、怖さも倍増である。

 ……ただ、その青灰色の瞳がなんだか獲物に向けるように爛々と輝いているのは、気のせいだろうか。

 白火は表情はそのままに薄い唇を開いた。


「俺は昨日の歌の対価として、お前の身を守ってやると言った」

「……はい」

「“身を守る”ことに、小娘の食事の準備は含まれていない」

「へ」

「たかだか3,4日の道程、何も食わずとも死ぬわけではないだろう。契約違反にはならない」

「は…」


 しばしの静寂。そして、


「はああああああ!!?」


 ――絶叫。