白狐のアリア

 翌朝、アリアが目を覚ましたのは日が昇って大分経ってからだった。太陽の位置から見て10時程度。普段は日の出と共に目覚めるアリアとしては、驚異的な寝坊だ。まだふわふわした夢見心地で欠伸をひとつ。

 寝過ぎてぼーっとする頭で目の前の焚き火跡を何ともなしに見ていると、頭上から耳に心地よい低音が響いた。


「遅い」

「ひぇっ!?」


 若干不機嫌そうに唸っているようにも聞こえる。
 びっくりしたアリアは飛び上がって後ろに後退しようとするも、ぬっと伸びてきた白火の手が二の腕をしっかり掴み、それも叶わぬ。


「後ろを見ろ、馬鹿」

「え? あ!」


 ぐいっと手を引かれ勢いで立ち上がる。後ろを見ると、まだ細い煙を立ちのぼらせた炭や煤けた石。まだ触れば軽く火傷する程度には熱い。あのまま後退していったら手のひらを焼いていただろう。

 どうやら白火は本当に身を守ってくれるらしかった。ほっとすると同時に、早鐘のように鳴る心臓を深呼吸で収める。


「ありがとうございました」

「ふん」


 白火は鼻を鳴らすだけだった。