白狐のアリア


「完全に重なっていない世界を半分渡った魔物に、物理的なものは全く役に立ちません。
 剣は霞を斬るように透け、矢も何もない地面を射す。此の面に縛られた人に、抗う術は無し……あ、これはその牧師さまの言葉なんですけど。
 でも、唯一此の面と彼の面を繋げるものがあるんです。
 それが、謡(うた)。というより、音ですね。
 【歌姫】というのは、特別な謡を謳うことで魔物を此の面に引きずり出すことを可能にする存在です。魔物と戦うには、必要不可欠な存在」

「その“見習い”なのか」

「はい。でも、わたしももう力は持っているんです。
 これは生まれつきの、言わば才能みたいなもので、持ってる人は持ってるし、持ってない人はどんなに頑張っても持っていない。あとは、謡の詩を考えるだけ。
 要は大切なのはその歌姫の『聲(こえ)』なのであって、詩はひとりひとり違うんです。その差で、歌姫の力の差が現れます。
 魔物を引きずり出すだけでなく戦士たちの士気を上げる謡もあるし、魔物の動きを若干ですが鈍くさせる謡を謳う歌姫さんもいます」