白狐のアリア


「謡(うた)を、歌います」

「うた?」

「わたし、こう見えても【歌姫見習い】なんですよ」

「うたひめ見習い?」

「……もしかして知らないんですか!?」

「…悪かったな」


 つんとそっぽを向いてしまったのに焦って、意味もなく手をあわあわと振る。
 なんとかして彼に森を抜けるまでの護衛を頼みたいのだ。その前に拗ねられてしまっては打つ手がない。


「あなたの故郷の森に魔物はいなかったんですか?」

「……妖怪ならいたが」

「ヨウカイ? 呼び名の違いですかね。わたし学が無いんでわからないですけど…。
 世界にはびこってる悪霊や妖魔の総称です。知りませんか?」

「知らん。俺の故郷にはなかった」

「そうですか……聖域にお住まいだったんでしょうか」


 さりげなく聞いてみるも、無視。
 どうやらそう言ったことには答えないようだった。名前すら教えないのだから、それもそうかとも思う。