白狐のアリア

 この青年が言うことは筋が通っている。


(……そっか、行っちゃうんだ)


 アリアは不安に思った。

 この森を抜けるには、このロバの足であと3日はかかる。
 だがこの獣人の青年なら、1日で終わるだろう。人間離れした運動能力をもつのが、多くの獣人の特徴なのだ。

 彼は、とりあえずアリアに害を与えない人物だとは思った。といっても取られる荷物は全て取られたし、残る物といえばアリア自身と老ロバしかないわけだが。
 青年があの盗賊と同じなら、もうとっくにアリアを襲っているだろうから。


「……あの」


 だから、頼みたかった。少なくとも安心して寝られる信用度はある青年に、せめて、森を抜けて街――王都に着くまで。


「対価を払えば、わたしのお願いは聞いてもらえるんですよね」

「それに見合う“対価”ならな。言っておくが、俺はあんたみたいな貧相な小娘を抱く気は更々無いからな」

「わ、分かってます!」


 もう15になるのに、普通の女の子達より成長が遅いのは分かっていた。どことは言及しない。

 分かってはいたものの、やはり見目良い青年に真正面から面と向かって言われると、ちょっとくるものがある。

 羞恥と少しの怒りに顔を赤くそめたアリアは咳払いをして座り直すと、青年の青灰色の目をみつめていった。
 綺麗な顔に思わず頬が更に染まるのは、どうしようもない。