白狐のアリア


「俺は奴らが目障りだったから消したまで。別にお前の為などではない」

「なっ」

「わかったらどこへなりとも行け。……いや待て」

「は!?」

(行けと言ったり待てと言ったり、なんなのこの人!?)


 混乱しているアリアを放って、白火はその秀麗な顔を彼女にぐいっと近づけた。思わず頬が朱く染まる。
 その銀色の瞳は、未だ涙の残っている目元をじっと見ていた。

 そして、次の瞬間思わずアリアはぽかんと口を開いた。


「お前、美味そうな香りだと思ったら、本当に美味いな」

「……へっ? は!? えええええ!!?」

「うるさい。頭に響く」


 頭の三角の耳を抑えて顔をしかめる様すら目の保養――って、違う! 今、こいつは――


「な、なななななな何を!?」

「何って、ちょっと味見しただけだが?」

「あじみ!」


 ずザザザザとアリアは後退した。
 老ロバが座っている位置まで、未だかつてない瞬発力とスピードだったと、後にアリアは回想する。