白狐のアリア

　盗賊たちは、新たな獲物ができたとじりじり彼を取り囲んでいる。


（どうしよう、なんで逃げないのかな）


　相変わらず押さえつけられている自分が逃げることはできないものの、獣人である彼なら、完全に包囲される前に突破できそうだった。
　早くしないと逃げ道がなくなってしまう。

　ひょっとしたら、彼は獣人の里を抜けて出てきたばかりのヒトなのかもしれない。
　きっと、自分たち獣人が世間ではどういう扱いを受けているかすら知らないのだろう。


「に、逃げて！　早く！！」

「黙ってろこのアマぁ！」

「あぐっ」


　肩を押さえつけていた男がアリアの腹に拳を叩き込んだ。咳き込み丸くなろうとするが、それもできない。
　それでも涙目になって必死に獣人の彼を見つめる。早く逃げてほしい、という意思をこめて。

　当の本人は、まったくそれに気づいていなかったが。